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美味しさの科学

2008年9月23日

美味しい炊飯理論

家庭料理を大切にする娘になってもらいたい。 そんな願いをこめて、娘への手紙のような形で、小学校5年生の娘が理解できる言葉で綴って参ります。 これからお料理を始める方をはじめ、素晴らしい食文化をもつ日本全国の娘様にも読んでいただきたい。 そして、家庭料理の醍醐味を堪能いただければ幸いです。

我が家の味のため、鍋炊飯にこだわろう

お料理の初めの一歩は「ご飯を炊く」だと思う。 ご飯さえ、きっちり炊ければ、それだけでも十分ごちそうであり、 そこからお料理は自然に広がって行く。まず、ご飯をいっしょに炊いてみよう。

電気炊飯器で炊くこともできるが、お鍋で炊飯することにこだわってみたい。 炊飯は、とても奥の深いもので、いろんな事を教えてくれる。 じっと観察しているいだけでも、その変化に驚きがあり、感動があり、実に面白い。 ところが、電気炊飯器だと、一足飛びになって、大切なたくさんのことが置き去りにされてしまう。

鍋で炊いたご飯は、何といっても愛情もこもるし、失敗がなければ断然おいしい。 実は、おいしさは、お米が教えてくる。そのお米の声にじっと耳をすますのが、鍋炊飯なのだ。 多少手間隙かかるが、出来上がるまでの時間も早い。 何よりも、自分で作ったという実感をもてる。めざすは、我が家の味、我が家のご飯。

そこで、しばし家庭料理について考えてみよう。 家庭料理とは、その家庭独自の味を作ること。それを子や孫に継承していく。 ところが、電気炊飯器だと、味は一律。失敗がないけれど、個性もない。 これは、ご飯だけではなく、すべてのお料理に通じる。

大量生産で作られた味は、インスタント食品や加工食品のように、便利だけど、いつでもどこでも同じ味。 人間だって同じかもしれない。同じ人間ばかりなら薄気味悪い。 やはり、きちんと味のある人になってもらいたい。 もしかしたら、電気炊飯器の登場で、我が家の味が、この時代にプチッと途切れてしまっているのかもしれない。

その延長で、味のある人も少なくなっているかもしれない。 だから、便利なものには注意して、賢く使い分けよう。 あくまで家庭料理はオンリーワン。世界でたった一つの味。 これが出発点。それを自覚するためにも、まず鍋炊飯にこだわってみよう。 そこには、家庭料理の醍醐味が待っている。

お米は、綺麗な水とセット

まず、「ご飯を炊く」は、材料は何だろう。もちろん、お米。それは、当たり前。 もう一つ大切なものが、水だ。 ご飯の65%はお米で、残りの35%は水。ご飯=お米+水。 この水を忘れてはいけない。

想像してごらん。「米どころ」と言われる、お米のおいしいところは、水もおいしい。 代表的なのは、新潟県、富山県とか。最近では北海道。 お米と水はセット。ココ愛知県豊橋市の水も大都市に比べれば良好。 水道水でも良い水と言えそうだが、大都市ではミネラルウォーターが必要かもしれない。

だから、水道水の源である川が汚れてしまうと、ご飯もお料理もまずくなってしまう。 そのためにも、故郷の川をこれからも大切にして行くべし。 生活排水も見直してみよう。地元の水でお料理できる事は、大変幸運なのだ。 それでも、水道水には、いくらかの不純物が含まれるので、浄水器などを使うのも良いかもしれない。

また、水には、硬水(こうすい)と軟水(なんすい)がある。水も奥深いね。 大雑把には、水の中に含まれるカルシウムやマグネシウムが多いのが硬水で、少ないのが軟水だ。 硬水は、ヨーロッパの水に多い。フランスのミネラルウォーターなんかは硬水。 そして、日本の水は、カルシウムやマグネシウムが少ない軟水だ。

実は、お米は軟水の方が適している。硬水だと、カルシウムがお米の組織を硬くするため、パサパサしたご飯になってしまう。 やはり自然の摂理で、その土地のものどうしで相性が良いようにできている。 その意味では、その土地のお米を、その土地の水で炊飯するのが一番なのかもしれない。

新鮮で信頼できるお米を選ぶ

さあ、本命のお米。これは、お米屋さんに教えてもらおう。やはり、新しいお米がいい。 ちょうど今はお米がとれる新米の時期。このチャンスを逃さないで。 さて、稲から籾殻を除去したお米は、胚芽、ヌカ、胚乳の3つからできている。理科の教科書を思い出して。 この3つが揃って玄米。見た目は茶色を帯びている。

ところが、食べやすくするために、胚芽とヌカを取り除いてしまう。この除去作業を精米すると言う。 その結果できる胚乳だけのお米が白米だ。その名の通り、白いお米。 そして、一旦精米してしまうと、それ以降は空気と触れて酸化がはじまり、香りや味が失われてしまう。 だから、精米したてが一番美味しいわけ。 そこで、玄米を買って来て、食べる前に精米機という機械で、白米にする人もいるよ。

けど、ここで疑問は、一番栄養のあると言われる胚芽をわざわざ取ってしまうこと。 実に、もったいない。次回は玄米炊飯もトライしてみよう。

さて、精米日の日付は確認できる。なるべく新しいものを購入するように心がけよう。 そして、中の状態が見えるものが良い。透明で艶がある。米粒が均一で不純物がない。 これが良いお米の指標。けど、素人だとどれも同じに見えてしまうかも。 やはり、信頼できるお米屋さんを見つけて、そのお米屋さんにお任せするのが良い。

また、作った人が分かるのも良いよね。食べてくれる人がわかると、作る人というのは、手間隙かかっても安全でおいしいものを作ろうと努めてくれる。これは、家庭料理にも通じる。知り合いにお米を作っている人がいれば一番。有名なのは新潟県の魚沼産コシヒカリ。地域によっていろんな銘柄というか名前があるね。秋田こまち、北海道キララ157、宮城ササニシキなど。 それでも、地元のお米が一番かもしれない。

最初の洗米に気をつけ、しっかり浸水させる

さあ、調理に取りかかろう。まず、ポイントは洗米。 白米に残っているヌカを取り除く作業。 お米が最初に水を吸い込むのは、最初の洗米時。 そして、最初の洗米は、さっと洗い流すこと。

長時間漬けないこと。洗われたヌカを吸い込んで、ヌカ臭くなると言われている。 ヌカ臭さってわかるかな。洗米の時に、白く濁った水を嗅いで見るとよい。 だから、蛇口からトボトボ水を入れるのではなく、お鍋などに溜め込んだ水でいっきに洗うこと。

そのためには、ボールとザルをセットにするのもひとつの方法だ。右図のように、 手付きのザル手付きのボールを重ねて、 水を注いで、ざっと洗ったら、ザルをさっと上げる。ボールに溜まった水は、他の用途にも利用できる。

水を切ったら、ザルの中で研ぐ。お米を研ぐという表現も面白いね。 包丁を研ぐと言うのはよく聞く。この表現が絶妙だ。お米同士をすりあわせて、表面を適度に削る。 そうすると、さらに吸水しやすくなる。 ただ、お米が割れないように、あまり力を入れすぎてはいけない。 「強すぎず、弱すぎず」そこで、手のひらの付け根のところで満遍なく、適度な力で押さえると良いよ。

包丁を研ぐときも、神経を集中する。 その要領で、「おいしくな〜れ」と、優しく心を込めること。 これを2、3回繰り返す。あくまで、研ぐことを念頭に。 その後、30〜60分ほど、浸水させておく。 この浸水も大切。すぐ火にかけると、お米に水分が入っていないので、芯があるというか、全体がふっくらと炊けない。 夏場は30分、冬場は60分と季節によっても調整は必要。

補足すると、最近では昔と違って、よく精米されているので、あえて研がずに、洗米だけする人も多い。 「無洗米」の登場もその延長にあるみたい。

お米の単位は2つあり、きちんと測る

ここで、お米の量り方について。これは、計量カップを使おう。 すなわち重量ではなく体積なのだ。1合=180cc 1カップ=200ccの二つの単位がある。 本来、お米は固体なので、重量の方がわかりやすいように思う。

しかし、後に入れる水との絡みか、液体と同じ体積で計るのが習慣となっている。 (それでも、お米屋さんで買うときにはkgなどの重量単位が使われるので混乱しやすいね。) ここでは「合」の単位を使おう。1合は、だいたい大目の1人分(お茶碗で2杯分)。

我が家では、だいたい1食あたり3合で良いよね。上図の計量カップは、 すりきれで180ccの1合だ。 通常は200ccのカップが多いので、このような道具を使うと、正確に測れて便利だよ。このカップで3杯分。 そこで、炊く時の水量も大切。浸水後、一旦ザルにあげよう。 炊く時の水量を正確につかんでもらうためにね。

やはり、お料理は科学。おいしさは科学。 それは、しっかり測って、目分量でしない。 大先輩たちの知恵で、おいしくなる基本のさじ加減なるものは決まっているのだ。 その基本をマスターしたら、後は自分で調整すれば良いよ。

やはり計ることは、習慣にしたいね。水量はお米の約1.1倍が基本。 お米1合なら水は約200cc(180×1.1=198cc)で、3合なら約600cc(540×1.1=594cc)となる。 この水加減もお米の状態にもよるので、あくまで目安として覚えておこう。

炊飯に適したお鍋を選ぶ

それでは、火にかけよう。ポイントは、その前に、お鍋をしっかりと選ぶこと。 まず、板厚が厚手であること。そして、素材は軽くて熱伝導の良いアルミ鋳物が、ご飯との相性が良い。 そして、蓋がやや内側に落ち込んで吹きこぼれにくいものが良い。

今回は、これらの条件を満たし、当社でも美味しく仕上がると評判の良い 文化鍋を使ってみる。 電気炊飯器よりも早く仕上がるし、火加減と時間さえつかめれば、確実においしく炊ける。

炊飯の方法には、昔からの言い伝えで「はじめチョロチョロ、中パッパ。ぶつぶつ言うころ火を止めて、ひと握りのわらを燃やし、赤子泣くとも蓋とるな」と絶妙な言葉がある。今回は、それに従って炊いて行く。この言葉、地域によっても若干違うようだが。

強火で沸騰したら、とろ火10分、蒸らし15分

鍋やコンロも違ったその昔は「はじめチョロチョロ、中パッパ」の表現だけは、気をつけよう。 個人的には「よく浸水させて、強火にかける」と解釈する。 「はじめチョロチョロ」はよく浸水させると理解し、火にかけるのは「中パッパ」から始める。 まずは、強火でいっきに沸騰させる。厚手のお鍋を使っているから、強火でもお米をほどよく温めていく感じになる。 この点でも、薄手のお鍋は使用しないように。

次に、「ぶつぶつ言うころ火を引いて」とあるように、ブツブツと煮立ってきたら、とろ火にする。 このブツブツの瞬間は、炊飯ならではのもの。昔の台所の原風景のようで、いやに懐かしい〜。 蓋が重いので、内部で程よく圧力がかかる。しかも、吹きこぼれも抑えている。 とろ火にするタイミングを間違うと、いわゆる吹きこぼれを体験してしまう。しかし、吹きこぼさないように気をつけよう。

目安はとろ火で約10分。タイマーを使ってみよう。ピピピ〜で火を止める。 補足すると、火を止める直前に一旦強火にして、内部の余分な水を追い出す、「追い炊き」をすることもあるよ。 これが「ひと握りのわらを燃やし」と言われる部分。そして、火を止めても、これで出来上がりではない。

蒸らす。そのまま15分間、蓋をとらずに、お鍋をそのまま置いておく。 「赤子泣くとも蓋とるな」で、お腹すかした赤ちゃんが泣いても、じっと我慢しよう。 赤ちゃんはご飯ではなく、母乳を待っているかもしれないが。 何があっても、蓋をとらない。それほど大切な時間。 この時間が短いと、芯が残り、長すぎるとべた付いた感じになる。 この蒸らし15分もタイマーを使おう。 改めて、測ることは、重要だよ。体内時計に頼らないように。

さあ、時間が来たら、蓋を開けま〜す。わ〜おいしそう。その瞬間に湯気とともに、かぐわしい香り。 うまく行けば、白く美しい表情に、感動の瞬間が訪れる。 その時、見とれていないで、すぐにほぐすこと。 しゃもじを底に入れて返し、空気をお米全体にいれる感じ。つぶさないように、優しく優しくね。 余分な水分も飛んで行く。けど、我が家ではそのまま、上図の曲げわっぱのおひつに移しかえるので、その作業は省略。

移しかえることにより、全体が満遍なく空気に触れる。 おひつが適度に水分を調整してくれる。そして、おひつ本体と蓋の間に、しばらくフキンを挟んで、蒸気を吸い込ませることもあるよ。おひつに少しおいて置くと最高のコンデションに。 天然の秋田杉の中におさまると、お米も我が家に帰ったように安心している様子。やはり、ご飯にはおひつだね。 さあ、しゃもじでお茶碗に美しく盛ってみよう。 その一粒一粒に躍動感がある。艶があって輝き、もっちりと立っている。 口の前でほのかに香り、口に入れるとほのかに甘い。

そして、炊飯作業は毎日続く

お米の状態も日々違う。 この炊飯作業の繰り返しの中で、水加減、火加減や時間、蒸らし時間なども含めて経験的に、 おいしく炊くコツをつかんで行くことだ。 それが、お米の声に耳をすますこと。 いや、目も使う。鼻も使う。舌も使う。手も使う。すなわち五感をフルに使うのが家庭料理なのだ。

そして、いつも違う、今日も新しいご飯に会える。 そんなワクワクした心持ちでご飯を炊くことが大切だと思う。 時には、失敗もある。しかし、おいしくご飯が炊ければ、最高に幸せな気持ちになれる。 日本人で良かった。人間でよかった。そんな声が魂から飛び出してしまうかもしれない。 ご飯には、そんな力が秘められていると思う。

そして、ご飯がおいしくなれば、自然と他のお料理への意欲も湧いてくるはず。 鍋炊飯は、忘れてしまった多くのことも教えてくれる。さあ、鍋炊飯からはじめよう!