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精読「食道楽」春の巻

第二十九 誠実の人

小山はこの風向を利用して大原の事を吹込(ふきこま)んと熱心に 「中川君、僕が殊(こと)に大原君の誠心実意に重きを置く所以(ゆえん)は 大原君も僕らと同じく文学界に立つべき人だからである。 文学者に一番必要な資格は誠心実意でないか。いかに文章が巧みでも筆の先で鬼神を泣かしめる力があっても その精神が欠けていたら何の役にも立たん。口で品行論を唱えてもその身が不品行であったらばどうして人を感化し得るだろう。 筆で道徳論を書いてもその身が不道徳をしては誠心実意何処(いずこ)にある。 いやしくも文筆を以て世に立つものは社会を感化するという心でなければならん。 世道(せどう)人心に裨益(ひえき)するという精神でなければならん。

それを今の世には悪くすると大間違いの心がけがある。 世人(せじん)の気に入るように文を書くという人もあるが、世人の気に入るのは幇間(たいこもち)の仕事と同じ事だ。 恋愛小説を書いて青年男女に媚(こ)びようとするのは幇間が旦那(だんな)を取り巻くと異(こと)なる処はない。 巧みだと評せられて文筆の能事おわれりと思うのも大間違い。 巧妙の点を求めたらば俳優の演劇にも巧妙はある。 軽業師(かるわざし)の曲芸にも巧妙はある、文筆の巧妙も軽業師の巧妙もその点ばかりは甲乙がない。 然(しか)らば何の点が文筆に貴いかというのに精神を以て人を感化する力がなければ文学は社会の贅沢物(ぜいたくぶつ)だ。 即ち世人をしてありがたいと感激せしむる分子がなければ何の役にも立たん。

筆の先で文章を書く量見(りょうけん)では決して世道人心を裨益する事が出来ん。 精神を以て書いたものでなければならん。国民の子弟を教育すべき教科書事件の騒動を考えてみ給え。 いかに文章辞句が巧妙でも収賄(しゅうわい)詐欺(さぎ)不徳無道の人の手に成ったものや 検定されたものがどうして健全なる国民を教育し得るだろう。 僕が教科書を編纂(へんさん)すべき任に当ったら、先ず第一に誠心実意忠良無二の精神ある人物を択んでその人に托するね。 しかるに今や天下の文学者を見渡してそういう人が何処(どこ)にある。 頭は鈍くとも技倆は劣るとも誠心実意の点は大原君より外に名指すべき人がない。 して見ると大原君は実に文学界で貴むべき人だ。 将来に大事業をなすべき人だ。それに今の文学者は多く我慢の癖がある。 自分の過(あやま)ちを遂げ非を飾りたいという癖がある。 それから嫉妬(しっと)偏執(へんしゅう)の癖がある。 他人の善事はあくまでも攻撃排陥(はいかん)して何でも悪く言わなければ気が済まんという癖がある。 社会の事物を評するのが全く感情任せで道理の判断に拠らないという癖もある。 独(ひと)り大原君に限ってその癖がない。

自分の脳髄の鈍い事を言立て他人の事は何でも褒(ほめ)る。 学校にいた時分も自分の解らない疑問は誰の処へでも聞きに来る。 自分より下級の人にでも尋ねる。あれは文学者に最も得難い美質だ。 あの美質があるから僕は将来の大成を期している。 大原君が常に心の礼という事を唱えていたが君も覚えているだろう。 今の内は社会に制裁がないから幇間的(ほうかんてき)文学や軽業的(かるわざてき)文学が 跋扈(ばっこ)しているけれども他日社会が規律的に整頓(せいとん)して文字(もんじ)を読まず 精神を読むという時代になったら大原君の如き人が最も尊崇(そんすう)を受けるだろう。

僕も及ばずながら大原君を助けてそういう人にしてみたいと思う。 家庭に在ありては良主人(りょうしゅじん)、社会に立っては好紳士として文学者の感化力を 我邦(わがくに)は申すに及ばず、世界八隅(ぐう)へ波及せしめたいと思う。 それにはどうしても良夫人(りょうふじん)を得させなければならん。 その良夫人はお登和さんを措(お)いていずくにか求むべきだ。 どうだね中川君、僕の主意が解ったかね」と大原のためにまた勉(つと)めたりというべし。

コメント:
「精神を以て人を感化する力がなければ文学は社会の贅沢物だ。」 文学への志の高さが伺えますが、世間は今日も同じで「幇間的文学や軽業的文学が跋扈している」 もともとの人間性は流されやすいものの強い意思を持って抗っていくこと。 それが生きること、書くことでありますが、今日これほど情報が氾濫してしまうと、 自分自身を見失いやすく、いつしか世間に影響されてしまっている。 かえって、人からの評価を得ることは危ういとも言えるでしょう。 果たして、今日の文学が、明日の古典となり、読み継がれるのだろうか。 「それにはどうしても良夫人を得させなければならん。」 個人的には、著者に共感いたしますが、夫婦という関係を尊重すること、その夫婦のあり方に精神性は強く表れる。 大原の価値と言うよりも、結婚の価値を教えてくれます。